宝塚で「柳生忍法帖」とは!

「ロミジュリ」の次の星組大劇場公演が「柳生忍法帖」になったと聞いて、正直なところ「えー、正気か……」とは思いました。大野先生、大丈夫か。

 

難しい舞台設定
これは一部で既に言われるように「山田風太郎の原作が不適切だから」というわけではなく、単に時代設定とかが難しいのです。戦国と太平のはざまである江戸初期の不安定な主従関係が背景に、とか言っても多くの人には何のこっちゃでしょう。

主な舞台になるのも会津ですし。保科や松平になってからじゃないですよ。加藤家ですよ。加藤嘉明といえば、豊臣秀吉の家来「賤ケ岳の七本槍」の一人で、まるで無名の人というわけではありませんが、七本槍で加藤と言ったら普通の人は「清正」しか思い浮かばんでしょう(見てませんが「美しき生涯」を見ている人なら大丈夫なんですかね)。

とはいえ加藤家会津藩の二代目、加藤明成という人が敵役。この人がだいぶむちゃな殿様だったようで、これを諫めて主従の縁を切った家臣どもを惨殺したわけです。その娘たちの敵討ちを助けようと、縁が生じた将軍家の姉君・千姫さまと沢庵和尚から依頼を受けるのが柳生十兵衛・礼真琴さまということになります。しかしこの前は「夢現無双」に出てきたと思ったらまた出てきましたね、沢庵和尚。公演に出てくるのかは存じませんが……。

主人公は柳生十兵衛
さて、しかし「柳生十兵衛って誰?」という人もいるかもしれません。一言でいえば剣豪ですね。これも「夢現無双」に出てきた柳生石舟斎のお孫さん。十兵衛のおとっつぁんの柳生宗矩は一所懸命徳川に仕えて、どうにか将軍家の兵法指南役と1万石の大名の座を手にしましたが、嫡男の十兵衛はそんなことお構いなし。三代将軍・家光さまのお怒りを受けてしばらく放浪していたとのこと。松平伊豆守(「メサイア」で出てきましたな)の密偵だったなどとも言われていますが、事績が伝わっているわけでもないので創作され放題。「柳生忍法帖」は時期からいうと放浪時代より後のはずですが、勝手気ままに振る舞うイメージそのままに描かれています。

まあ、現在において柳生十兵衛をイメージするとしたら千葉真一と考えるのが常識的でしょう。「魔界転生」は見たことのある人も多いかもしれませんが、そのイメージで差し支えありません。眼帯をしたいかつい大男で強そう。しかし、これをこっちゃんがやるのか……という時点でまず頭が痛いのですが、どうするんだろう大野先生。

ともあれ、大枠を押さえると。
・時代は江戸の初め
・舞台は江戸と会津(とその間の道中)
・主人公は柳生十兵衛
・十兵衛は、娘たちが敵討ちをするのを手伝う
という感じ。ざーっくり言うと、こういうお話ということです。

「そのへんはどうなの?」
しかし宝塚的関心を踏まえながら山田風太郎(以下、山風)作品を説明するのは難しいですね。Q&Aにしてみましょうか。

Q:ヒロインはいるの?
A:いません。
  女性はけっこう出てきます。上述の千姫さま、その養女で東慶寺の住持だった天秀尼、敵討ちの中心である、家臣(堀家)の娘たちが7人。あとは敵役の加藤家の妾のお由羅。通常なら堀家の娘(名前を失念)が娘役トップの役かなあ、とは思いますが、この人、十兵衛との絡みがあんまりないのですよね。それに十兵衛はとにかく皆にほれられ、でも女人には関心がなくて、という人柄なので何も起こりようがない。ただ、お由羅は敵側ながら十兵衛の味方になる人で、感情的に一番関わりが深いのは実はそこかもしれません。どうするんだ大野先生。

Q:エログロなんじゃないの?
A:原作には裸や血まみれも出てきますが、なくても話は成立します。
  裸の女体を体にまとって戦おうとする大男(なんだそりゃ)とか出てきますが、基本的にはエロやグロは存在感が薄いです。柳生忍法帖の映像化はもしかするとエログロ基調に仕上げているかもしれませんが、それは単にそうしないと売れないからで。そもそも原作のエログロ描写は嫌らしい部分が少なく、特に主人公の十兵衛や堀家の娘たちについては、汚れ仕事がほとんどない。要するに話の筋立てに絡むエログロはないに等しいので演出でどうとでもなるでしょうけれど、大丈夫か大野先生。
  
Q:男役の役はあるの?
A:あります。
  敵役の加藤明成に「会津七本槍」という家来がおり、これが実動部隊。人殺しの実行犯で、えらく強い。だからこそ、これと戦うために十兵衛が助っ人を頼まれたというのが筋立ての真ん中です。剣士やら大男やら犬使いやら、細かいことは忘れましたがとにかく7人は間違いなく役がある(時間がないので減らすかもしれないけれど)。ほかに加藤家の黒幕に芦名銅伯という妖怪みたいなジジイ(徳川家の天海僧正―「あまみ」じゃないよ―と双子という設定)がおり、沢庵和尚とその弟子たち(十兵衛と一緒に敵討ちを手伝う)がいますが、弟子たちまでは手が回らないのではないかしら。しかし二番手は何をやるのかな。加藤明成か、会津方の剣士か。それとも大野先生が何かでっち上げるのかしらん。

(続く)