靉光展

東京国立近代美術館靉光展を見に行きました。生誕100年の記念展。「闇の奥に鋭く光るもの。」というコピーがふさわしいかはともかくとして、なかなか良い展示でした。
靉光の絵は異物感を抱かせるものの不快さを感じない、芸術らしい芸術作品で、ちょっとした花の絵や果物の絵でも、こういう絵が家に一枚でもあれば「家には芸術作品がある」と威張っていえるような気がする──そんなようなものでした。技術的にどうとかいうのは、よく分からないものですが。
靉光の生い立ちは、貧農の家庭で生まれて食べていけずに養子に出され、学業は思わしくないため好きだった絵で身を立てようとしたものの養親に反対され実家へ戻り、デザインの仕事をするといってようやく許されて大阪へ出た──という正統派の美術教育とは縁のないもの。しかし画風はむしろ器用で、何でもけっこう簡単にまねることができたようです。確かにゴッホ風の風景画やブラック風の静物画なぞが並んでもいました。しかし面白いのはやはり後年の作品。絵自体は国立美術館所蔵作品検索システムで見られるのでそちらを。「眼のある風景」はもはや風景にも何にも見えないのが面白うございます。眼は確かにありますが。こういうのって、たぶん一所懸命構成して描いて描いてしているうちに、いわゆる「風景」とは懸け離れたものになってゆくのでしょうね。そのベクトルが感じられて好ましい絵です。
靉光は30代半ばで召集されて戦地で病没したわけですが、前衛美術家は目の敵にでもされていたのでしょうかねえ、やっぱり。瀧口修造治安維持法違反で逮捕されていますし。こと靉光に関しては、つくづくもったいないことをしたと思います。
展示の規模は1時間程度で巡るにちょうどよいくらい。疲れずに見られて物足りなさも感じない程の良さです。センスのいい面白い展覧会でした。