自衛権?

自衛とは何か。イスラム過激派のISILが、もし米軍が空爆をするなら報復すると言った。これは自衛か。ISILが戦争を仕掛けた、という向きももちろんあろう。しかし彼らは、国(イスラム国家)を取り戻すのだと言っている。元々存在した国を取り戻すのは非難されるべきなのか?
イスラム過激派にシンパシーを持つわけではないが、およそ人間が関わることにおいて、立場を変えても自明なことなどほとんど無いというのは事実だ。そのような世界における「自衛権」を巡る日本の議論のまやかしに深く失望する。新聞で読んだ閣議決定案は、まさに言い訳とごまかしの集大成だった。官僚の能力はこういうことに使うために存在するわけではなかろうに。「やむを得ない」だの「明白な」だの、立場を変えればどのようにでも使える言葉をちりばめた作文は戦争放棄の理念を嘲弄するものだ。この方向でいったい何をやりたいのか。好んで事を構えようとしているとしか見えない。
軍事力がそもそも役に立つ局面はあるのか。もちろんある。不意の攻撃にとりあえず反撃する、攻撃されれば黙って受け入れるつもりはない、という意思表示としての軍事力、これが自衛だろう。ただし、これは完全に受け身のものだ。戦争が全面戦争になってしまえば、もはや軍事力は悪夢を生むだけ。21世紀の戦争の特色は「終わらない」ことだと言ってもいい。アフガンしかり、イラクしかり。軍事力がある限り、戦争は終わらない。であれば、とにかく最初の交戦が一段落したら、全力で停戦を模索するしかない。「やった者勝ち」になる? 歴史の事実はどうか。これも立場によって見方は変わるだろう。そして、「やった者勝ち」の人生を送りたいかどうかによっても。そんな人生、私は送りたくないが。「己の欲せざる所を他に施すなかれ」という古くからの格律に従うのみ。