偉い人たちにはそれが分からない

日銀の手詰まりが露呈している。

決定会合 物価目標、半年先送り 追加緩和見送り
 日銀は28日の金融政策決定会合で、追加金融緩和の見送りを賛成多数で決めた。マイナス金利国債の大量購入を柱とする大規模な金融緩和を現状のまま維持する。一方、2017年度の物価上昇率の見通しは前年比1・8%から1・7%に下方修正。2%の物価上昇目標の達成時期を従来の「17年度前半ごろ」から「17年度中」へと約半年先送りした。目標達成時期の先送りは今年1月に続き4回目。13年4月の「異次元緩和」導入当初は「2年程度」とした目標達成時期は4年半程度かかることになり、18年4月に任期を迎える黒田東彦総裁の在任中の目標達成は瀬戸際に追い込まれた。(毎日新聞ニュースサイトより)

日銀が3年前に打ち出した「リフレ派」とやらの方針は、円安で物価を上昇させることで物価が今後プラスで推移すると期待させ、その期待をエンジンに賃上げや景気回復を図ろうという政策だったはず。しかし円安で人は貧しくなった。今後も貧しくなる気しかしない。給料はろくに上がらないし、実感として物は高くなっており消費意欲をかき立てない。既に家庭には消費財のストックが満ちており、あえて消費を進める必要もない。日銀の政策はむしろ人々の不安をかき立て、消費意欲を減退させている。偉い人や日銀のお利口さんにはこういうことが分からない。
世界的な金融緩和が市場を劇的に不安定化しており、素人は退場を促されている。「貯蓄から投資へ」といいながら環境を悪化させているのはまた財政やら金融やらの当局ではないのか。そんな市場に人は乗り出せない。利益と損失が五分五分だとするなら、職業的なファンドマネジャーならいざしらず、一般人はリスクを取る理由がない。普通の人は、もうけることへの期待よりも損失への不安の方が大きい。あるいは、もうけた時の喜びよりも、損した時の失望の方が大きい。でたらめに言っているわけではない。プロスペクト理論でそう立証されている。結局、お金は使うのも良くないし投資をするのも良くない、ということになる。
白川方明・前日銀総裁は今の様子をどう思っているだろうか。白川さんというのは何だか上品な人だったので、自分の後任の政策についてとやかく言ったりはしないのだが、デフレの要因は金融政策ではなく少子高齢化・人口減だと言っていたはず。人口減をすぐに止めるのは無理だったとしても、少子化は政治で解決できたはずの問題。結局、世の中が良くなるという期待を持つためには若い人が増える必要があったという、ただそれだけのことかもしれない。
ところで下は、今回の決定会合前の文章。

経済観測 短期決戦の長期化 東短リサーチ・チーフエコノミスト、加藤出
2013年4月に「2年でインフレ率を2%にする」と宣言して開始された日銀の量的・質的緩和策(QQE)は、短期決戦型の政策だった。しかし、QQEはすでに4年目に入っている。
(中略)
短期決戦で臨んだものの、結果的に長期化してしまう流れは、第二次世界大戦時の構図をほうふつとさせる。当時の日本軍の組織上の問題点を分析した名著「失敗の本質」によると、開戦前の1941年、近衛文麿首相から見通しを問われた山本五十六連合艦隊司令長官は「是非やれと言われれば、初め半年や1年は、ずいぶん暴れてご覧に入れます。しかし2年3年となっては、まったく確信は持てません」と長期化のリスクを警告していた。
(中略)
日銀が先月発表した「5分で読めるマイナス金利」は、「この3年間、『異次元緩和』は、たしかに効きました」「この政策はとても強力です」と“大本営発表”的な説明に終始していた。奇妙に似ている点が恐ろしい。
(4月16日 毎日新聞ニュースサイト)

引き返せない、という思いが大本営にはあったろう。今の日銀にそれはないのかが気がかり。景気回復を劇的に促すような僥倖を待っているだけというならば、やはりかつての日本軍のように、ただジリ貧に陥ることになるはずだ。