おおかみこどもとTPP

細田守監督の「おおかみこどもの雨と雪」をようやくブルーレイで見る。前2作はちゃんと映画館に足を運んだことを考えれば、横着になったもの。それなりに楽しみにしていたはずだったが。
物語は、東京に住む苦学生の花が、ふとした出会いから「おおかみおとこ」と結ばれ、二人の間にもうけた男女の「おおかみこども」の「雨」と「雪」を苦労しながら育てる、という話。「おおかみおとこ」は子どもが小さいうちに死んでしまうので、花はえらい苦労をすることになるのだが、話はチャッチャと進んでいくため、見る側はあまり気をもまずにすむ。それに花は一見かぼそく描かれているが、とにかく体力があって聡明だし、温和であっても意志が強い。普通の人間なら投げ出しそうな状況をほとんど苦にしていないように見えてしまう。つまり、花の苦労がこの話のメインテーマではないのだが、じゃあ何が、と考えたときにTPPのことが気になったのは時節柄仕方のないことだろうか。
狼と人間の間をフラフラしながら成長する「おおかみこども」は、遠吠えはするわ部屋は荒らすわ、都会の古アパートではとても暮らせず、花は山間の古民家に引っ越して、半自給的な生活を送ることになる。内山節みたいな暮らしだ。作物を市場には出さず、自家で作らなかったものは近所と物々交換で調達し、必要最低限の現金は自然観察員の補助の仕事で得るという暮らし。こういう生活は、経済という面から見たら最も市場に敵対的な暮らしだ。自家消費や物々交換ではGDPは増えない。輸出からも輸入からも遠いところにいて、財界や政府が計算できる豊かさにほとんど貢献しない。要するに、現在の価値観では推奨されない生活ということ。
しかし、実際の田舎暮らしや人付き合いがそんなに良いものかはともかくとして、花が選んだような生活にはある種の豊かさを感じずにいられない。おおかみこどもを養わなければならない、という強力なモチベーションを花に与えることで、細田監督は、金銭となじまない豊かさの方へ物語世界を動かそうとしている。
福島の原発を見るにつけても、今の私たちの都市生活というのはもたなくなっているのではないか、少なくとも本来は期限付きの生活なのではないか、と強く感じる。アベノミクスも結構だが、私たちはもう、大量のエネルギーを使う大量消費の世界から撤退する時期にさしかかっている。アニメの感想としてはあまりよろしくないようだが、そんなことを思わされる。