舞城王太郎『阿修羅ガール』『世界は密室でできている。』

文庫化された舞城王太郎を2冊。今は図書館で借りた『好き好き大好き超愛してる。』を読んでいますが、読み終えた2冊の方から簡単に。
阿修羅ガール』はそれなりに傑作です。感動的です。まあ、正直に言うと私は何にでも安易に感動してしまう方で、「一杯のかけそば」だって最初に聞いたときは随分いい話だと思ってじんと来たりもしていますから、感動的というのは別に褒め言葉ではないかもしれません。うん、フィクションの感動なんて人に何も与えないし、人を何にも駆り立てないと言い切ってもよいと思っています。ただまあ、読書に一種の達成感を付加するためには感動的な盛り上げというのは有効で、感動的な本というのは読者サービスの良い本、というほどのことでしょうか。そうすると、舞城王太郎は実にサービスの良い書き手だと言えるでしょう。以前に読んだ『煙か土か食い物』も『世界は密室でできている。』も、きちんと最後に盛り上がって感動できるように作ってある。「読んで損をした」という感じを抱かせないストーリーテリングの力がある、というのは『阿修羅ガール』を読んで特に思いました。まずは巧みな物語作家ではないでしょうか。
単なる物語作家から舞城王太郎を切り離す点があるとすれば、特徴的とされる暴力の描写やばかばかしい喋りやドタバタのシーン、独特の勢いの良さ──などが挙げられる? いや、こういったくさぐさはむしろ取るに足りない点でしょう。女子高生アイコの独白はそれほど巧みではないし、ドタバタは笑えない人間には徹底的に笑えないだろうし、勢いの良さは読みやすさに貢献しているとはいえ面白さに貢献しているかは微妙です。
でも『阿修羅ガール』は面白く読めたなあ、というのはむしろ単なる物語作家の作品だから、かもしれません。アイコがうっかり寝てしまった佐野の誘拐、陽治に対する恋心と失恋、引きこもり青年「グルグル魔人」による幼児殺しと魔人の自殺、調布(物語の舞台)での中学生狩りに端を発した若者間の紛争(アルマゲドン)──などのエピソードに、アイコの内的分身「シャスティン」の登場するホラー挿話をはさんで、無理なく進行させうまく収拾させています。そういう力量はとても魅力的。無理なく、というのは物語のために無理やり登場させたような人物(だいたいご都合主義的に愚かだったりする)が出てこないということでもあって、登場人物が大事にされている印象は心地よいです。この調子でガンガン読ませてほしいと思います。
世界は密室でできている。』は粗製乱造の密室に、ポスト新本格の荒廃した風景を読みとれなくもない、という感じでしょうか。密室トリックとかにはあまり興味がないので、次々に消費されていくてきとーな密室の説明もそこそこ面白く読みました。どんどん消費されていく、というのが大事。私たちの今の世界には特権的な密室など存在する余地はないのでしょうから。