戦争における「人殺し」の心理学

ちくま学芸文庫『戦争における「人殺し」の心理学』を読む。戦争であろうと人間は簡単に人を殺せるものではない、という事実を改めて教えてくれると同時に、現代の軍隊がいかに人を人間らしさからうまいこと遠ざけてゆくかを教えてくれる本でもあります。
厚い本ですが要点は一つ。それは、15〜20%に過ぎなかった第二次世界大戦中のアメリカ兵の発砲率が、ベトナム戦争時には90%以上に上昇したという事実。たとえ我が身が生命の危険にさらされようと、8割以上が自分の銃を撃とうとしなかった第二次大戦には、今から見ればまだヒューマニスティックな要素があったことを感じさせます。翻って現代の軍隊が、人間(のほとんど)が生来持つ「殺人への抵抗感」を克服させ、反射的に人を殺せるように人間を仕立ててきたということも分かります。
その結果は大量のPTSD患者たちというわけです。本来嫌悪すべきことを反射的にできるようにしてしまう。当座の拒否感は薬物でしのげても後からじわじわと来る精神的負荷には耐えられない。人間は、いくら脱感作しても、少なくともその程度には人間的なのですよね。逆説的な形ですが、人間性の確かな存在を感じさせてくれる良書と言ってよいでしょう。