舞城王太郎「ソマリア・サッチ・ア・スウィートハート」

たとえ大状況に絶望しても、日々の生活においてはあきらめることなく、できる範囲で善を追求せよ――というのが当世風の賢い身の処し方なのだろう。時々疲れるにしても。
舞城「ソマリア……」は『スクールアタック・シンドローム』(新潮文庫)所収の書き下ろし中編。
叔父から最悪の性的虐待を受けながら育った杣里亜は主人公の同級生だが、学校でも他の生徒の攻撃衝動をかき立てた末に、ものの弾みで死んでしまう。しかしその結果、死んでも生き返ることが判明。嗜虐趣味の叔父は杣里亜への暴力をエスカレートさせ、杣里亜を助けようとする主人公を無力感に陥れる――。
とっぴな設定ではある。が、最悪のことは同じように繰り返すという世界のありのままを的確に描いた傑作だった。舞城らしくラストはほんのり明るく色づけしてあるものの、それまでの酷さが十分印象的なので、救いを感じさせないのも良いし、人を納得させる力がある。