被ばくリスク

「どの神も、私に不死を約束しなかった」
クォ・ヴァディス』の中でシェンキェヴィチが、実質的な主人公である「趣味の審判者」ペトロニウスに書かせた言葉だったと思う。
低線量被ばくのことを調べていてこの言葉を思い出したのは、どうも被害の実態がピンと来ないせいだ。発がんリスクが高まることは分かったが、どの程度高まるのかはよく分からない。年間100ミリシーベルトの被ばくで、生涯でがんになる確率が0.5%高くなる、というのが東大の中川恵一先生のお話(Dr.中川のがんから死生をみつめる:/99 福島原発事故の放射線被害、現状は皆無)。
むろん、すすんで被ばくしたいというのではない。しかし、現状ないし近い将来の状況(原子炉が爆発はしないと想定すれば)は、いま世間を騒がせているほどに恐ろしいことなのかどうか(原子炉近くで作業している人は別として。そういう人がいなければトラブルに対処すらできない以上、原発政策は放棄すべきだ)。
私たちは既に、いろいろな意味で、汚染ゼロの世界に生きているわけではない。排ガスやら農薬やらたばこやら。その中で放射線だけをことさら恐れるというのは、あたかも放射線だけを防ぎうるなら、私たちは死なずに済むといわんばかりに見えてしまう。事実はそうではない。どの神も私に不死を約束しなかった。
端的にいえば、放射線を避けるより、現状では喫煙者なら禁煙した方が簡単に発がんリスクを下げることができるだろう。しかし、どのみち人は死ぬのだし、原子力など存在しなかった江戸時代にだって、あの健康マニアの徳川家康胃がんで死んでいるはずだ。放射線に限って恐れるというのは滑稽ではなかろうか。
水や農産物が当分の間、汚染されるのは事実だが、原発政策を受け入れてきた以上、それらのリスクを受け入れるのも私たちの義務だろう。発がんが嫌なら、アスタキサンチンでも摂りますか。抗酸化力、自然界最強とのこと。意外に安いし。
もっとも、子どものことになると私も悩みます。子どもの口にする飲料と食事はミネラルウォーターにすべきでしょうか。