おっちょこちょい

例えば白い犬を立て続けに5匹見ただけで、「犬は白い」という結論を出すような人がいる。まあ、おっちょこちょいと言えば済む話だし、落語にでも登場すれば話を盛り上げる大事な役割を担うのだが、現実世界ではそうもいかない。自分に都合の良い情報だけを耳に入れて他人をののしる人があれば、眉をひそめざるを得ない。この猪瀬直樹東京都知事のお言葉。

猪瀬知事:気象庁を批判 6日の「大雪」予報が外れ
 6日に首都圏が大雪になるとした気象庁の予報について、東京都の猪瀬直樹知事は8日の定例記者会見で「(気象庁は積雪を)多めに言ったと思っている」と述べ、大雪になった成人の日(1月14日)の予報を外したため、その後は積雪を過剰に見積もったとの見方を示した。(中略) 会見で猪瀬知事は「2度も続けて外れるのはおかしい。(予報官が)心理的にぶれたと思う」と指摘。過剰な予測の根拠として「個人的だが(前日の)深夜に空を見ても雪が降る気配が全くなかった。気温も下がらなかった」と述べた。(8日付毎日jp)

ため息が出る。石原慎太郎氏に4期も都知事を務めさせた東京都民にとっては、知事の程度がこんなものでもさほど気にならないのかもしれないが。
知事が批判している当日の天気は、東京23区の西隣、武蔵野市では雪。場所によっては少し積もる。用事で出掛けた新宿も、みぞれ交じりの氷雨に強風が重なる悪天候で十分寒かった。お車で移動される知事には分からなかったのかもしれない。こういう天気は積雪と紙一重だと思うのだが。その紙一重を何とかせよというのは、控えめに言って、謙虚さに欠けている。
そもそも知事の出自が問題だ。ジャーナリストというのは拙速をたっとぶ習性があり、つまりおっちょこちょい。そそっかしい。新聞、雑誌、テレビを問わず同様。世間の人々はつまるところ、日々おっちょこちょいどもの発信する情報にさらされているわけで、まあ長屋のご隠居さんよろしく「なにを言ってるんだい、またこのジャーナリストは」と、眉につば付けて話半分に聞いておくというのが正しい姿勢だと思う(虚報ばかりというわけではないので全否定するのもよろしくない)。ところがところが、そのおっちょこちょいが何を間違ってか政治家になることがある。責難は成事にあらず。人を責めることは事を成すのとはだいぶ違うのだ、と。立派そうに見えるがこれは小野不由美の「十二国記」のどっかに出てきた言葉で、でも今の都知事を評するにはその程度の言葉で足りるところがやり切れない。現実の政治は拙速が喜ばれる場面ばかりではない。それを理解しないではないだろうが、言動の端々に長年の習性が顔を出す。いかにも危なっかしい。
天気予報やらツイッターやらにかまける暇などあらばこそ。知事は知事として、粛々と仕事をしてほしい。本当は、何もしないのが一番都民のためなのかもしれないが。