難しい話

安倍晋三首相が消費税の増税を発表した。来年4月から8%、おそらくその1年半後に10%。一概に反対はしないが、心配はある。
しかしこういう話になるとマスコミはどうしても、庶民の暮らしが圧迫される、家計をどう防衛するか、みたいな話をしたがる。庶民の味方ヅラをしたがり、増税の意味をぼやかす。庶民の味方、おおいに結構だが、話のピントを狂わしてはいけない。
朝三暮四。消費税のことについて考えると浮かぶのはこの言葉だ。昔々の中国に狙公という猿の好きな人物がいて……という故事は広く知られているとおり。木の実の数を、朝に少なく夕に多くすると言うとサルは怒り、朝に多く夕に少なく、と言うとサルは喜んだ。結局のところ、いわゆる庶民もサルと大差はない。細川護煕首相時代、消費税を7%にという話があった。かれこれ20年前のこと。当時から既に福祉の予算は破綻が予定されていて、回避するにはそれなりの負担が必要だったが、国民はそれを拒否した。税金を払いたくないなど当たり前、とは言えるが、それでもサービスを享受しようというのはやはり無理な話であった。
結果として国の借金は増え続け、財政危機は深刻の度を強めている。今回の消費増税は、そのような先送りから脱却するという意味で前向きな出来事で、なにがしか物事を前に進めたという達成感があってもよいはず、なのだが……。
残念だが、そのような感じは全くしない。とにかく釈然としないのは、こんなことで本当に借金を返せるのか、先が見通せないからだろう。50兆円足らずの歳入で70兆円ほどの歳出(公債費を除く)を賄っているのが現状。消費税を10%にしたところで期待できる増収は10兆円強。まだずいぶん足りない。景気刺激で所得税などその他の収入を10兆円程度増やせばようやくとんとんだが、そんな都合の良い話があるかどうか。一般会計税収は、最も多かった1990年度で60兆円程度。当時はバブル絶頂期だったが、アベノミクスとやらで当時ほどの税収に届くのかどうか。インフレを進める? ハイパーインフレなら起こるかもしれないが……。
いずれにせよありがたくない未来しか想像できず、子どもや孫のことを思うと気の重いことこの上ない。貨幣経済から遠ざかる方へ進んでゆけるか。まず地方が疲弊し、次に都会もダメになる。その時どういう暮らしを選択できるか。50年後のことが気になる。