「国益」の射程

都知事選で田母神俊雄候補が61万票も獲得したことは引っ掛かっていたのだが、こんな記事を読んだ。
続報真相 田母神氏61万得票の意味
田母神氏を支持した人たちの考え方にあぜん。今の若者は頭が悪い? 私が年を取ったのがいけないのか。最後の田母神氏の言葉らしき部分を読んでますます暗い気持ちになる。

核武装して世界で発言力を持つ国」を目指す田母神氏に「そんな国をつくって何をするのか」と聞いてみた。諭すようにこう言われた。「世界で発言力を持てば自分たちが得をする。米国がやっているように、他国にお金を出させて自分たちの金は自分のために使った方がいいでしょう。今は核保有国の言われるがままにお金を出している。それでいいと思いますか」

国益」というのは銭金の話か! それも短期的な。なんという射程の短さ。とても誰かを説得できるような話に思えないが。それでも61万票を取れてしまうとは頭が痛くなる。
中国や韓国は、日本にとって決して付き合いやすい国ではないが、友好関係を保つことができれば長期的な紛争リスクを下げることができる。戦争が最大の国富の損失であることは昔も今も変わらない。まさか中国と全面戦争して勝てば賠償金でももらえると思っている? 第一次世界大戦あたりで頭が止まっているのか。戦争はただの人命と金銭の浪費。何一つ得られるものはない。これは憲法9条がどうこうという以前の話。
中国との関係では核兵器は抑止力たり得ない。端的に日本の方が攻撃目標がコンパクトにまとまっている。仮に同じ数の核弾頭を保有したとしても勝負にならない。中国との関係では、防衛力は離島と海岸線を中心に考えて、あとは諸事全般の風通しを良くすることと、歴史や文化への造詣をむしろ深めてゆくことで、互いに敬意を抱けるようにすること。それぐらいしかない。
そもそも核開発自体が割に合わない行為で、日本よりよほど資源に恵まれているイランでさえ経済制裁で音を上げた。まあ、音を上げて結構な話だと思うが。日本など経済制裁でたちまちコロリ、だ。核保有国が気に入らないなら、非保有国を組織して圧力をかければよい。日本がアメリカの核の傘に入っているからといって、遠慮することはない。
田母神氏の言うような「国益」は誰のためのものなのだろう。日本は2060年には総人口が3分の2になり、青年(18〜34歳)の人口が半分になる国。そこをはき違えないでほしい。ゆっくりと縮んでゆく国にふさわしいのは、自棄的な強がりではない。