佐伯祐三展

ガス灯と広告

今日は中村橋の練馬区立美術館でやっている「佐伯祐三展」へ。「サエキけんぞう?」と言った人がいますがそれは別の人。
中村橋もこの美術館も初めて。駅から2分もかからない場所でした。建物を見た最初の印象は「でかっ!」。渋谷区の松濤美術館ほど「金がかかっている」感はありませんし、中に入ってみると展示スペースはそれほど広いわけでもなく、ショップもカフェも無いのですが、建物は結構大きいのです。区立美術館らしく展示室の他に創作用のスペースがあるためと思われます。しかしまあ、文化資本が東京に集中するわけですわ。区立レベルでこのスペースですから。実物に接する機会は地方と圧倒的な差があります。
次の印象は「込んでいる(¨;)」。午後3時ぐらいに行ったのですがチケット売り場に10人ぐらいの列ができている。都心以外の美術館で平日に並んでチケットを買ったのは初めてです。佐伯祐三、人気あるのですね。おしゃれ系の絵ではありますが、色は暗いし線はガチャガチャしているしで、神経質な印象の方が強いかと思っていました。
展示はほぼ、作家の経歴を追ってのもの。会場に出ていた年譜と照らし合わせると分かりやすいです。美学校時代、第1次渡仏、帰国、第2次渡仏(30歳で渡仏中に亡くなったのでここまで。ちなみに6歳の娘も半月後に死去。二人の遺骨を持ち帰った夫人は大変だったでしょうね……)。主に知られているのは渡仏中にパリの街角を描いた絵だと思いますし、私が好きなのもその辺です。看板やポスターのアルファベットの書き方がクールで味です。上に載せた画像は「ガス灯と広告」。国立近代美術館蔵なので私には割になじみのある絵ですが、いつ見ても「格好いいな〜」と思います。
異国の文字、特に看板などはエキゾチシズムをかき立てるもので、その情緒が絵心を刺激するのかもしれませんが、佐伯祐三の写した文字にあるのは情緒よりも単なる美しさ。素早い線でパッパと書く、しばしば読めない文字たちの線の配列がとにかく良いのです(軽みとか速さとか細みとか、私にとって大事な価値を実現しているということでしょう。入り乱れた小鳥の足跡のように美しい)。その文字たちをどんよりと包む街角の、微妙に崩れたフォームが醸す緊張感も見る者の目を引きつけます。文字のない「オプセルヴァトワール付近」や「リュクサンブール公園」ではカシャカシャとした樹木の線が画面をにぎわして、また違う感じで緊張感を出すのですが、主要作品ではやはり文字の存在感が強いです。観音開きの扉だけを描いたような絵でも、必ず文字が入り込んできます。日本にいる間に描いた絵のさえなさは逆に印象的。わざわざアルファベットの入っている静物(「テレピン油のある静物」「ポスターとロウソク立て」)を描くあたりに、文字への飢えを感じます。創作を駆り立てる題材(パリの街並み、文字)が目に見えやすいところも、ファンが多い理由かもしれないですね。
物販はポストカードのみで貧弱(額絵がほしかった)。図録は2000円。個々の作品について解説が無いのが寂しいですが、まあまあ充実。印刷は悪くありませんが発色は実際よりやや暗め。ついでに言うと、年譜は誤植が多うございました。竹林夢想庵って誰ですか(正しくは武林無想庵。会場に掲示されていた年譜でも「竹」は直っていたが「夢」は直っていなかった)。気を付けなくては、ですね。